実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『姜尚中の政治学入門』(姜尚中)

姜尚中政治学入門』読了。『政治学入門』だとばかり思っていたが、よく見たらすごい題名だった。『エドワード・ヤンの恋愛時代』(asin:B00005ULOI)みたいだ。

姜尚中の政治学入門 (集英社新書)

姜尚中の政治学入門 (集英社新書)

アメリカ」「暴力」「主権」「憲法」「戦後民主主義」「歴史認識」「東北アジア」という、7つのホットなキーワードについて語った本。新書なので、もう少し深掘りしてほしいというところで終わってしまう物足りなさはあるが、問題点を整理するにはいい本だと思う。各キーワードごとにお薦め本が一冊ずつ挙げられていて、それを読めば物足りなさが解消される、という仕掛けだろうか。お薦め本は順に次のとおり。

印象に残った点をいくつか挙げておきたい。

  • 憲法とは、権力者による力の行使をどのように縛るかを定めたものであり、その国の独自な価値や国民が遵守すべき義務を含むわけではない。
  • 敗戦直後は、戦後的なるものをどのように構築するかが定まっておらず、豊潤な可能性を秘めた様々な考え方が顕在化したが、そのような様相は1948年に終焉した。
  • 戦後民主主義は、戦争体験の検証や思想化に成功していないし、旧植民地支配の検証、被害者への賠償、差別意識の解消に積極的に取り組んでこなかったのではないか。

比較的淡々と歴史や思想を紹介する他の章と比較して、最後の「東北アジア」の章はかなり著者の主観が入っている。六ヶ国協議がうまくいっていたときに書かれているので、今読むとちょっと切ない気持ちになるが、最悪に近い状況の今だからこそ逆に、ここに書かれていることを真剣に考える必要があると思う。

最後に「私と政治学」と題するあとがきがあり、ここが最も印象に残った。ここに書かれているのは、視覚偏重のメディアが扱うような「生もの」情報から、何が正しくて何が間違っているのかを判断するには、人文・社会科学のような「干物」の知が必要である、ということである。これは、もっと一般化すればフロー情報とストック情報の関係であり、私の本業に対しても示唆に富む内容であった。