『姜尚中の政治学入門』読了。『政治学入門』だとばかり思っていたが、よく見たらすごい題名だった。『エドワード・ヤンの恋愛時代』(asin:B00005ULOI)みたいだ。
- 作者: 姜尚中
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/02/01
- メディア: 新書
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印象に残った点をいくつか挙げておきたい。
- 憲法とは、権力者による力の行使をどのように縛るかを定めたものであり、その国の独自な価値や国民が遵守すべき義務を含むわけではない。
- 敗戦直後は、戦後的なるものをどのように構築するかが定まっておらず、豊潤な可能性を秘めた様々な考え方が顕在化したが、そのような様相は1948年に終焉した。
- 戦後民主主義は、戦争体験の検証や思想化に成功していないし、旧植民地支配の検証、被害者への賠償、差別意識の解消に積極的に取り組んでこなかったのではないか。
比較的淡々と歴史や思想を紹介する他の章と比較して、最後の「東北アジア」の章はかなり著者の主観が入っている。六ヶ国協議がうまくいっていたときに書かれているので、今読むとちょっと切ない気持ちになるが、最悪に近い状況の今だからこそ逆に、ここに書かれていることを真剣に考える必要があると思う。
最後に「私と政治学」と題するあとがきがあり、ここが最も印象に残った。ここに書かれているのは、視覚偏重のメディアが扱うような「生もの」情報から、何が正しくて何が間違っているのかを判断するには、人文・社会科学のような「干物」の知が必要である、ということである。これは、もっと一般化すればフロー情報とストック情報の関係であり、私の本業に対しても示唆に富む内容であった。