『図説 占領下の東京』読了。
- 作者: 佐藤洋一
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2006/07/15
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 5回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
米軍は東京の何を破壊しようとしたのか、そしてそこに何を構築しようとしたのだろうか。(p. 12)
という問題提起がなされており、それに続いて、
戦災(空襲)と戦後の占領(接収)。共通していえるのは、結果的に明治以降連綿と形成されてきた〈帝都〉を解体しようとする行為だったのではないか、ということである。(p. 12)
とある。しかし、空襲の被害が下町に多く、明治以降に建てられた近代建築などが適当な建物として接収されたことを考えると、帝都は存続し、解体されたのはむしろ江戸の名残のようなものではないかと思える。この本のなかに、上の仮説を受けた結論のようなものはない。
上述の問題提起に関しては、最後に
日本の民主化を推し進めるべく進駐した占領軍というストレンジャーのために建設され、整備され、改装されてきた空間は、その目的を達成すると破壊され、リセットされたのである。(p. 123)
とあるように、結局のところ(特に都心の)占領地は、それまでの都市のありかたとはある程度無関係につくられ、なくなってしまうと、その後の都市のありかたにたいした影響を及ぼさなかったように思われる。
第3章の「都心部の接収地をめぐる」は、当時の占領軍専用バスのルートに沿って占領期の都心を紹介するというもので、たいへん興味深かった。ただ、このような文章中心の紹介では、いくら地図や写真が載っていても非常にわかりにくい。私もテキスト至上主義者だけど、こういった内容の場合は限界がある。この本は、タイトルに「図説」とついているけれども、図が豊富にあれば「図説」だということにはならない。それらをどう連携させるかが問題である。これは、この本だけではなく、同様の「図説」シリーズ全体にいえることだし、本というメディア全体にもいえることである。
巻末に東京都区部の占領軍接収地リストがついており、英文名称、日本語名称、接収/返還年月日、現状などが書かれているのが嬉しい。資料としては重宝しそうな本で、ロケ地研究の役にも立つかもしれない。「占領期・東京の映画を見る」というコラムもあって、私が真っ先に連想するのは『お茶漬の味』(asin:B0009RQXKA)だが、これには言及されていない。