実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『日本という国』(小熊英二)

『日本という国』読了。

日本という国 (よりみちパン!セ)

日本という国 (よりみちパン!セ)

小熊英二氏の本は、『「日本人」の境界』(ISBN:4788506483)も『〈民主〉と〈愛国〉』(ISBN:4788508192)も、ものすごく読みたいのだが、その高さと厚さと重さがネックになって、未だ入手もしていない。それがなんとなく心にひっかかっているところにこの本が出た。薄くて軽くて安い。中学生向けということで、字の大きさとルビが気になるが、「中学生以上すべての人の」と書いてあるので購入した。

「日本という国」(「にほん」とルビがついているところがいいですね)の歩みを、明治と第二次世界大戦後に絞って述べた本。書いてあることはだいたい知っていることだが、非常にうまくまとめられてわかりやすく述べられており、現在とこれからの日本を考えるうえで、必要な背景や問題点がわかるようになっている。

ところどころにいろいろな人の文章や発言の引用がちりばめられているが、これがいちいちおもしろい(興味深い)ので、参考文献リストがないのが惜しまれる。特に印象に残ったものを引用する。まず、岡部一明(アメリカ研究者)の文章。

……人権尊重の範を垂れる必要も意志もない国家だけが過去への精算にも興味を示さないということである。(p. 153)

それから、最後に引用されている、サンフランシスコ講和会議前の丸山真男の文章。

敗戦によって、明治初年の振り出しに逆戻りした日本は、アジアの裏切者としてデビューしようとするのであるか。私はそうした方向への結末を予想するに忍びない。(p. 185)

また、1947年に文部省から出された『あたらしい憲法のはなし』という社会科の教科書も引用されている(pp. 107-108)。第二次世界大戦に関して、日本の被害のことばかりで日本がアジア等に与えた被害にふれられていないのが気になるものの、あまりにすばらしくて涙がちょちょぎれた(引用するには長いので、ぜひ見てみてください)。その後のアメリカの方針転換によって、こういった教材は使われなくなったらしいが、私が小学校の頃(言っておくけど終戦から何十年も経っています)はまだ、戦後民主主義の残滓といったような雰囲気があったように記憶している。私はその頃から、教科書には政府に都合のいいことが書かれているから騙されないように疑って読まなければいけないと思っていたが、そんな私がみても、「日本国憲法は日本が誇るべきすばらしいもので、その大きな柱のひとつが戦争の放棄である」ということが伝わってきた。それはいつから変わってしまったのだろうか。それとも今もそのように書かれているのだろうか。

国家の品格』だとか『国民の××』だとかを読んで喜んでいる人たちに、ぜひ読んでほしい本である。もちろん本来の対象である子供たち(小学校高学年でもOKだと思う)は全員読むべきなので、心ある大人の人は自分の子供に買い与えてほしい。