実録 亞細亞とキネマと旅鴉

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

『母の旅路』(清水宏)

ラピュタ阿佐ヶ谷の特集は、「母のおもいで母のうた」(公式)。大映の母物なんてふつうは観ないが(三益愛子って好きじゃないし)、監督が清水宏なので『母の旅路』を観る。

戦前の映画で比較すれば、清水宏 > 成瀬巳喜男 > 小津安二郎なのだが、戦後だと小津安二郎 > 成瀬巳喜男 >> 清水宏(小津と成瀬の比較は平均をとった場合であり、上位数作品をとったら順序づけ不可能)となってしまう。戦後すぐだと『小原庄助さん』とか『蜂の巣の子供たち』とかけっこういいのだけれど、だんだん…。

『母の旅路』は、佐野周二がサーカスの団長なんて似合わないなと思っていたら、実は勘当された社長の息子で、サーカス団をやめて実業家として再出発するというストーリー。サーカス団で生まれ育った三益愛子が急に「奥様」になって、「『SAYURI』か?」(って観てないからよく知らないけど)という着付けで出て来たり、いろいろと騒動を巻き起こす(「参観日に自分の子供に拍手する」というエピソードはどこかで観たことがあるような…)。でも笑えない。三益愛子がサーカスに戻るというラストは、「母物」としては「娘の幸せのために母親が身を引く」という感じなのだろうが、「家族のために犠牲にはならず、自分の行きたい道を行く」というふうに捉えたい。でもラストシーンの三益愛子はすごく堂々としていて、社長夫人としても十分やっていけそうだから、しばらくして現役を引退したら元の鞘に納まってうまくいきそうな気がする。

もともとの想定にかなり無理があることもあり、どうやってもハッピーエンドにはなりそうもなく、けっこう後味の悪い映画である。みんなが少しずつ何かを我慢したり犠牲にしたりしなければならないのに、佐野周二だけやりたい放題で、そのくせ物分かりのいいところばかり見せているのが気になる。もともと彼が、親の残した財産と未亡人になった昔の恋人によろめいたからこうなったのに(口では娘の将来のためとか言っているが)。社長になったとたん、神経痛はどこかに飛んで行って、元気いっぱいなのも気になる。

主演の三益愛子よりも、若尾文子をちょっといびつにしたような、娘役の仁木多鶴子の魅力で観る映画。大山健二の名がクレジットにあったが、どこに出ていたのかわからなかった。大山健二ファンのJ先生も「気づかなかった」とのこと。