実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬(The Three Burials of Melquiades Estrada)』(Tommy Lee Jones)[C2005-34]

恵比寿ガーデンシネマで、トミー・リー・ジョーンズ監督・主演の『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』(公式)を観る。アジア映画以外では、メキシコが絡む西部劇っぽい映画というのは、私がソソられるテーマのひとつである。

主人公は、カウボーイのピート・パーキンズ(トミー・リー・ジョーンズ)。メキシコ人カウボーイ、メルキアデス・エストラーダ(フリオ・セサール・セディージョ)の死体が発見されてから、彼を誤って殺したのが国境警備隊員のマイク・ノートン(バリー・ペッパー)であることをピートが知るまでの現在と、メルキアデスとマイクが、それぞれ町にやってきたときからの出来事を、時制を交錯させて描いているのが前半。そして後半は、ピート、ピートに拉致されたマイク、死体のメルキアデスの3人が、メルキアデスの故郷、ヒメネスをめざし、国境の南へと旅するロードムービー。メキシコの空気は、サム・ペキンパーの映画ほど濃厚ではないけれど、それなりに出ていたと思う。というわけで、終わってからずっと、頭の中では“South of the Border”(written by Jimmy Kennedy and Michael Carr)が鳴りっぱなしである。South of the border, down Mexico way♪(映画はこんなごきげんな内容ではないのだが。)

ピートの異常ともいえる行動を動機づけているのは、故郷に埋葬するというメルキアデスとの約束を守ること、不法滞在者だということで国境警備隊の面子が優先され、死の真相をうやむやにされてしまったメルキアデスの尊厳を守ること、そしてマイクに生きて罪の償いをさせること。だけどこの映画からそういったテーマだけをことさらに取り出すべきではないと思う。この映画は、国境という特殊な場所を舞台に繰り広げられる人間ドラマだ。メキシコ国境で、アメリカは不法入国しようとするメキシコ人をがんがん殺しているんだと思っていたが、この映画を観るかぎりそうではないらしい。不法入国というと、命がけで国境を越えていつかはアメリカ人になる、というイメージがあるけれど、国境近くのメキシコ人は、けっこう簡単に不法入国して、何年か稼いでまた帰ってくる、アメリカ側も表向きは厳重に警備しているが、彼らに経済的にある程度依存している、そういった関係があるのだろうと思った。国境をめぐる表と裏、国境をどちらから越えるかによる非対称性と対称性、そういったことがこの映画をおもしろくしている。

基本的に男の映画だが、マイクの妻、ルー・アンを演じるジャニュアリー・ジョーンズがなかなかよかった。最初はただのイケイケねえちゃんみたいだが、だんだん輝きを増して、退屈しのぎに毎日カフェで煙草をふかしている姿などいい雰囲気を出していた。