実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『観光コースでない満州 瀋陽・長春・ハルビン・大連・旅順』(小林慶二、福井理文)

『観光コースでない満州 瀋陽長春ハルビン・大連・旅順』を読み終わる。

観光コースでない満州―瀋陽・ハルビン・大連・旅順

観光コースでない満州―瀋陽・ハルビン・大連・旅順

去年は戦後六十周年だったせいか、満洲関連の本が次々に発売された。私は2000年に旧満洲(大連、瀋陽長春、哈爾濱)を旅行したので、その前後に満洲関連の本をたくさん読んでいる。私としては満洲関係はそれで一区切りというつもりだったのだけれど、読むべきだと思われる本はそれなりに買っていて、これもそのひとつ。

「観光コースでない」というからには知らないしぶ〜いところが載っているかと思ったら、どちらかというと初心者向けの内容だった。載っているところの多くは、ふつうのガイドブックにも載っている「観光コースである」満洲だ。だけど、かなり広範囲にいろいろな場所が紹介されていて、そこに関わる歴史などの記述も多いので、旧満洲を初めて訪れてみようという人がひととおりの知識を得るにはいい本だと思う。ちょっと気になったのは、場所の説明と、その背景の歴史と、著者がその場所を訪ねた旅行記みたいなものがごちゃまぜになっていること。構成にもう少し工夫がほしかった。

ところで私は海拉爾(ハイラル)にとても行きたいのだが、海拉爾のことは一行たりとも書いてなかった。海拉爾には満洲国あるいは日本がらみの見どころはほとんどないのだろうか。

いくつか間違いを見つけたので指摘しておく。

  1. 「映画監督マキノ光男」(p. 112):名前は「マキノ満男」で、プロデューサー。
  2. (李香蘭が)「長谷川一夫と共演の「百蘭の歌」、池部良とのコンビで撮った「熱砂の誓い」が日本で公開され」(p. 112):正しくは『白蘭の歌』と『熱砂の誓ひ』。また『熱砂の誓ひ』の共演も長谷川一夫。どこから池部良が出て来たのかわからないが、李香蘭(山口淑子)と池部良が共演するのは戦後である(『暁の脱走』とか) 。
  3. 「「黒い太陽」と題する中国映画が七三一部隊をとりあげていた」(p. 159):『黒い太陽七三一』のことだと思われるが、これは香港映画である。
  4. 「ヤマトホテルの右隣は、この広場に最初に建設された大連民生署(後の市役所)で、現在は中国工商銀行大連分行。煉瓦造り二階建てで、設計者・前田松韻がヨーロッパの市役所をモデルに設計したと言われる。」(p. 201):ヤマトホテルの右隣は大連市役所で、設計は松室重光。大連民生署と大連市役所は別の建物で、この説明は両者が混ざっている。