実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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「寡黙なイマージュの雄弁さについて - 侯孝賢試論 -」(『文學界』3月号)

文學界』3月号に、蓮實重彦侯孝賢(ホウ・シャオシェン)について書いている。私はハスミ教徒ではないが、侯孝賢ということで読んでみた。内容についてはコメントしないが、間違いが多いので、気づいた点をメモしておく。信者の人はこんなブログには来ないだろうから、あまり意味はないだろうけれども。

『恋恋風塵』が脚本家の一人である呉念真の台湾で生まれた「内省人」としての記憶を反映させた作品だとするなら、(p. 99)

内省人」という言い方が正しいのかどうか定かではないが、少なくとも一般的ではない。

祖母は大陸に住んでいた頃の土地の名前を口にして方角を尋ねるのだが、その広東語を、台湾生まれの屋台の女たちはまったく理解することがなく、(p. 100)

コマーシャル映画の撮影スタッフのスチル・キャメラマンを鳳飛飛が演じている『風が踊る』には、海辺の町で興味深いアングルを求めて高い家の屋根に上った彼女の足元を、青く塗られた車体の電車がゆっくりと通り抜けてゆくごく短いショットが存在する。(p. 103)

ここでいう「海辺の町」は澎湖島の風櫃(現・澎湖縣馬公市)であり、電車が走っていることは絶対にあり得ない。しかし、そう書かれているからにはそのように誤解するショットがあるのだろうと思ってDVDを見直してみたが、該当すると思われるショットで通り抜けるのは阿B(鍾鎭濤)の乗った牛車であり、どこにも青い電車らしきものは見当たらない。

資産家の娘である彼女は、…(中略)…、両親が準備した資産家の御曹司との結婚に踏み切ることに疑問を覚え、首都を離れて臨時教員として叔母の住む田園地帯に住みつくことになる。(p. 105)

これは『ステキな彼女』のヒロインについての説明だが、『ステキな彼女』での鳳飛飛は臨時教員ではない(子供たちを集めて遊んではいるけれども)。彼女が臨時教員になるのは『風は踊る』である。細かいことを言えば、「住みつく」というのも正確ではないと思う。

それから、これは間違いではないが、ちょっと気になったので。

侯孝賢における電車の車体はいずれもが濃紺に塗られており、それが台湾の鉄道の現実を反映したものか、監督の意図によるものかは明らかではないが、(p. 104)

これは台湾の鉄道の現実を反映したものである。ただし、現在はこの車体の列車はほとんど走っていないと思う(正確なところは未確認)。それにもかかわらず、ごく最近でも、台湾映画や台湾ドラマに登場する列車の大半はこの青い車輌(「濃紺」というのは正確ではないと思う)である。この車体がノスタルジックで、特に田舎へ向かう場合は雰囲気が出るからだろうか。