実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『長恨歌』の音楽

關錦鵬(スタンリー・クワン)監督の『長恨歌』の香港版DVDが先日届いた。この映画には小津安二郎映画の音楽が使われているが(id:xiaogang:20051022#p1)、どの映画の音楽なのかにいまひとつ自信がなかったので確認した。正解は、『秋日和』のメインタイトルが三回、『秋刀魚の味』のポルカが二回、『小早川家の秋』が二回だった。『秋刀魚の味』と『小早川家の秋』はすぐわかるが、わかりにくいのが『秋日和』。『秋日和』のメインタイトルは冒頭近くに盛り上がるところがあって、そこを聞けば「あぁ、『秋日和』だな」とわかる。ところが映画の中では、なぜか(巧妙に?)その部分がなく、そのあとのところから始まっている。だから特定するのにかなり苦労した。

長恨歌』にはかなり多くの音楽が使われている(残念ながらオリジナル・サウンドトラックには10曲しか入っていないが)。その大半は、その時々の上海に流れていたであろう曲であり、その時代の雰囲気を出すためのものである。一方、小津映画の音楽が当時の上海に流れていたはずはない。小津映画の音楽は、登場人物のテーマとでもいうべきものであると思われる。『秋刀魚の味』のポルカ呉彦祖(ダニエル・ウー)のテーマであり、『小早川家の秋』は鄭秀文(サミー・チェン)が形式上の結婚をする夫のテーマだ。それぞれ、鄭秀文との関係が、実質的に始まるときと終わるときに流れる。それでは『秋日和』のメインタイトルはどうか。この曲が流れる最初の二回は、鄭秀文が梁家輝(レオン・カーファイ)から胡軍(フー・チュン)は死んだと聞かされるときと、後年、彼女が胡軍の現在の消息を聞くときである。このことから考えると、『秋日和』は胡軍のテーマであり、その流れるタイミングを他のふたつと重ね合わせるとなかなか興味深いと思った。ところが、ほかの二曲が二回だけなのに対して、『秋日和』はもう一回流れる。それはラスト、鄭秀文が死んだあとである。ここでこの曲の解釈がわからなくなった。もしかして鄭秀文自身のテーマなのか。