バンガロールに来ちゃったの

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『5five 〜小津安二郎に捧げる〜』

NHKアジア・フィルム・フェスティバルで、アッバス・キアロスタミ監督の『5five 〜小津安二郎に捧げる〜』を観る。2003年のNHKアジア・フィルム・フェスティバルで新作として上映されたものだが、台湾旅行のため観られなかった。キアロスタミならいずれ公開されるだろうとの予想に反して、現在に至るまで公開される気配もなく、今回旧作として上映されてやっと観ることができた。

五つの風景ショットからなる映画。「波と犬と画面を横切る人」が延々と続くというような話を聞いていたので、もっと小津スタイルを前面に出したものかと思ったらそうでもなく、『麦秋』っぽいのかと思ったら、どちらかといえば『晩春』だった。「寝ること必至」とも聞いていたが、最初からそういうものだと思って観ていたためかそうでもなかった。たとえば街角のカフェに座って、変わりばえのしない風景や通り過ぎる人々をただ眺めていても、けっこう面白くて眠くならないのと同じだ。キアロスタミが小津に捧げて何を描こうとしたのか正確にはわからないが、日常の反復の中に生じるささやかなドラマというような印象をもった。あるいは人生の暗喩といってもいいが、そんなふうにまとめるより映っているものを素直に観たほうが楽しいかも。

ひとつめのショットは波に洗われる木片。突然ふたつに割れるところがドラマティックで、いつのまにか大きいほうの木片が沖のほうまで流されているのがなんとなく切ない。ふたつめのショットは海岸通りを横切る人々。違うんだけれど、ここが国道134号に見えてしかたがない。人々は、小津映画のような奥行きのある空間の向こうを横切るわけではないので、印象は異なる。途中で登場する鳩も横切るのを期待したがそうではなくてがっかりするが、これは四つめのショットにつながっている。三つめのショットは浜辺にたむろする犬。最初はうずくまっていてロングショットなので、アシカとかラッコのようなものと思っていたら(「そんなもんが砂浜にいるかよ」という突っ込みはおいといて)、立ち上がったら犬だったので驚く。この海はおそらくイランのどこかなのだろうが、逗子もどきも江ノ島もどきも、あるいは烏帽子岩もどきも見えず、一面ただ海である。四つ目のショットは浜辺を横切るあひる。人間のときとは違い、みな同じ方向に横切っていき、途中から逆向きになる。すごいなと思ったらちゃんとあひる飼いのおじさんがいた。これは小津というより『あひるを飼う家』(李行)である。五つ目のショットは夜の水面に映る月。月が雲に隠れたり、雨が降り出したりする。こんな暗い画(月が隠れたら真っ暗だ)を最後にもってくるとは、かなり挑戦的である。

たぶんこれが今年最後の映画。102本というのはけっこうがんばったといえる。