実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ある子供』

西洋の映画をほとんど観なくなった今日このごろ、名前だけで観る西洋の監督といえば、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌアトム・エゴヤンくらいである。そのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌの新作、『ある子供』を観に、朝から恵比寿ガーデンシネマへ行く(奇しくもエゴヤンの新作ももうじき公開される)。

行動し続ける主人公をキャメラがひたすら追っていくところなど、同監督の傑作『ロゼッタ』(asin:B00005HNUD)を連想させる反面、ある意味では『ロゼッタ』とは正反対ともいえる作品。まず主人公の生き方や労働に対する考え方が大きく異なる。また、ロゼッタがまわりの人間を拒否し、観客をも拒否するようだった(でも私は個人的にロゼッタにすごく共感したのだが)のに対し、『ある子供』の主人公、ブリュノはかなりロクでもないヤツでありながら、憎めない雰囲気で観客を惹きつける。そして観客は、彼と一緒に一連の出来事を経験する。彼に共感したり感情移入したりするわけではなく、かといって客観的に眺めるのでもなく、まさしく一緒に経験するという感じ。ブリュノの行動を言葉で理由づけようとしたり、この映画の差し出すメッセージを抽象的な言葉に置き換えようとしたりすれば、途端に嘘っぽくなってしまうだろう。出来事や行動の連鎖としてただ提示して共に経験させることで、真実を含み、人の心をうつものになり得ている。ダルデンヌ兄弟の映画にいつもある、しんとした空気も健在だ。