実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『浮気雲』

私にとっては映画祭最終日。Foodshowでヘルシー丼を食べて文化村へ。1本目は蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督の新作、『浮気雲』。『ふたつの時、ふたりの時間』で時計売りと客として出会った李康生と陳湘[王其]が、再会して結ばれるまでの話。エロさとばかばかしさと滑稽さと真面目さが同居した映画である。

『ふたつの時、ふたりの時間』の続編らしいのは、ふたりが再会したときの台詞と陳湘[王其]のスーツケースくらい。パリではカフェの砂糖をせっせと持ち帰っていた陳湘[王其]が、今度は水の残ったペットボトルを拾い集めているので、「やはり同一人物か」と思う。異常事態が発生してパニック状態の社会が舞台で、時々非現実的なミュージカル・シーンが繰り広げられる構成は、むしろ『Hole 2』といった趣。ファースト・シーンは『さらば、龍門客棧』の続編かと思わせ、ラストシーンもまたそう考えたほうがしっくりくる。

蔡明亮は水の作家である。雨は止むことなく降りつづき、部屋には水が溢れる。ところが今回は、水不足が深刻化し、断水となったマンションが舞台だ。だからといって水が登場しないわけではない。水不足だからこそ逆に水分が渇望され、ペットボトルの水から体液まで、画面には常に液体が登場している。

李康生はAV男優という設定で、AVの撮影シーンが多い。劇中劇のシーンはたしかにエロいのだが、ほとんどのシーンでは、演じている俳優の横で冷静に撮影したり、水をかけたりしているスタッフが共に映し出される。俳優も、撮影が止まったとたん日常に戻る。それらが非常に滑稽で、おかしい。非常にAVに近い映画であって、同時にAVから非常に遠い映画なのではないかと思った。AV女優役は夜桜すももで、『AV』の天宮まなみとは対照的なタイプ。映画の中での役割の違いと言ったらそれまでだが。

ちなみに、台湾の西瓜汁(スイカ・ジュース)は死ぬほどうまい(映画では15元とか言っていたけれどもっと高いはず)。小康みたいに西瓜汁が飲めなくなってしまう人が出ないことを祈る。

上映後、蔡明亮監督と李康生をゲストに、ティーチ・インが行われた。また英語を介した通訳でうんざり。
(オーチャードホールの音響が悪く、録音したものがよく聞き取れないため、採録するのは諦めました)。

会場を出ると、「ダンカンがいたよ」とJ先生。「周群達(Duncan)、来ないはずだったのに来たの?」と思ったら、たけし軍団のだった。ちえ。ぬかよろこびさせやがって。