実録 亞細亞とキネマと旅鴉

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

『人生劇場 飛車角と吉良常』(DVD)

『人生劇場 飛車角と吉良常』をDVDで観る。

人生劇場 飛車角と吉良常 [DVD]

人生劇場 飛車角と吉良常 [DVD]

内田吐夢監督の最高傑作であり、すべての映画の中でベスト10に入る映画(あくまでも私にとって)。内田吐夢といえば骨太で重厚な作風で知られるが、これはもうちょっと繊細なつくり。すべてのショットがかっこよく、すべてのシーンが美しいドラマである。内田吐夢唯一の任侠映画といわれているが、任侠映画というより人生ドラマといったほうが正しい。

『人生劇場 飛車角』(asin:B0009XE914)と比べて構成がすごくうまい。吉良常を結節点として、主要な登場人物がネットワーク状につながっていく前半。皆がそれぞれの思惑を胸に三州吉良港へと終結し、クライマックスを迎える後半。人物もドラマもすごくうまくつながっていて、少しも不自然なところがない。『飛車角』と比べて細かいところはかなり違っているが、私の想像では、『飛車角』のほうが原作に近く、『飛車角と吉良常』は映画としてまとまるように組み替えているのではないかと思う。

飛車角=鶴田浩二と宮川=高倉健は『飛車角』と同じだが、ふたりともこちらのほうがずっとかっこよく、特に健さんは同一人物とは思えないほど終始かっこいい。タイトルが「飛車角と吉良常」となっているように、吉良常の出番は『飛車角』より多く、登場人物たちの間に入って対立を緩和していく重要な役どころ。これを辰巳柳太郎が味わい深く演じている。ちょっと芝居がかっているかもしれないが、私の中ではこれが吉良常のイメージとして定着しているので気にならない(田宮二郎の吉良常から入ったりするとかなり違和感があるかも)。一番好きなシーンは、吉良港のお座敷で飛車角とおとよが偶然再会したあと、吉良常が「生きてるっていうのは愉しいねぇ」と言うところ。この映画全体を端的に表している台詞だと思う。

おとよは『飛車角』とは違って、誰かに勧められるままではあるが自分の運命を選びとっていく女。これを藤純子が、もう彼女にしかできないかわいい女として演じている。そして忘れてはならないのが左幸子。彼女の存在感がスパイスとなり、この映画を他の任侠映画とは一味違うものにしている。