バンガロールに来ちゃったの

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2011年03月10日のつぶやき

『沖縄の民』(古川卓巳)[C1956-37]

フィルムセンターの特集「よみがえる日本映画」(公式)で、古川卓巳監督の『沖縄の民』を観る。

明確なストーリーのある映画というよりは、登場人物たちを通して、沖縄の民間人や召集された学生たちの様々な戦争体験を描いたもの。いろいろなエピソードが羅列的に描かれるだけで、それらがうまく組み合わさっていかないし、終盤いきなりメロドラマ的サプライズがあったりして、いくぶん面食らう。しかし、民間人がいかに軍部や本土の犠牲になり、本土とは比べものにならない苛酷な体験を強いられたのかはよくわかる。ただ、集団自決をめぐるドロドロはあまり描かれておらず、軍人だけを悪者にしているように思えた。

主演はいちおう左幸子だが、脇役に目を転じると、金子信雄、安部徹、二本柳寛、信欣三って、「いったいどこのヤクザ映画だよ」と言いたくなるメンツ。しかし、金子信雄と信欣三はまともな先生役で、安部徹と二本柳寛は軍人。安部徹は悪役だけど、いつもとは大分趣が違う。そんななか、いつものとおりの小悪役がひとり。西村晃。「お嬢ちゃんたち、そんなおじさんについて行ったら危ないよ」と思いながらハラハラして見ていたら、やはり危なかった。命がけの芋掘りシーンがかなり長いので、「もしかして杞憂か」とも思ったが、芋が掘れたらやっぱりいつもの西村晃だった。

驚いたのはラストシーン。フィルムセンターの解説には「ラストには沖縄返還への強いメッセージが込められている」とあるが、子供たちの作文がめちゃくちゃ不気味である。ほとんど本土を知らない沖縄の小学生が、「早く本土に返りたい」という作文を自発的に書くわけがない。しかも、「美しい本土」とか「美しい日の丸」といったあり得ない内容。それは戦前・戦中にすり込まれた教育そのものではないか。そんな作文を満足げに聞いている左幸子先生。おぞましいラストだった。

『純情部隊』(マキノ雅弘)[C1957-37]

同じくフィルムセンターの特集「よみがえる日本映画」(公式)で、マキノ雅弘監督の『純情部隊』を観る。

主演が力道山東千代之介というあまりのショボさに、「観なくてもいいか」と思ったけれど、まだマキノ制覇の夢は捨てていないし、観ろといわんばかりのスケジュールだったので観た。これは観て正解。すごく楽しくハッピーな映画だった。

前半の舞台は終戦直前の軍隊。スポーツや芸能界、あるいはビジネスでは活躍しているが、軍人としては使い物にならない新入り二等兵たちを面白おかしく描いたもの。ここはマキノが戦中に撮っていたホネ抜き国策映画の趣き。

後半は5年後のクリスマスに軍隊仲間が再会する話で、こちらがメイン。物分りのいい見習い士官だった東千代之介が大スターの東千代之介になっていたり、みんな元の世界に戻って活躍しているなか、相撲をやめた力道山だけが落ちぶれていた。そんな力道山をみんなでプロレスラーにしようとする話。クライマックスは、軍隊時代のいぢわる軍曹と力道山のプロレス対決。功夫ならいくらでも楽しく見ていられるが、さすがにプロレスはしんどくて、最後のほうは退屈した。

力道山と、相撲の親方の娘、星美智子とのメロドラマもストーリーに絡めてあり、戦後ふたりが再会するシーンがある。そこで星美智子は王道的マキノ式メロドラマを演じているのに、相手の力道山健さんもびっくりなほどぼーっとしているのが笑えた。

ディック・ミネがキャバレーの人気歌手で、クリスマスの夜に『夜霧のブルース』などを歌ってくれて楽しい。だが欲をいえば、軍隊時代にも歌うシーンがほしかった。進藤英太郎も社長役で健闘。軍隊仲間ではないが、力道山の相撲の弟弟子役でやまりんこと山本麟一も出ている。

『8時間の恐怖』(鈴木清太郎)[C1957-38]

同じくフィルムセンターの特集「よみがえる日本映画」(公式)で、鈴木清太郎(鈴木清順)監督の『8時間の恐怖』を観る。

夜中に列車が水害で止まり、急いでいるワケありの乗客たちが振替のオンボロバスに乗り込む。そのバスが目的地に着くまでの8時間のお話。シチュエーションはかなり異なるけれど、これは鈴木清順版『有りがたうさん』[C1936-12]だと思う。清順と清水というのは妙な取り合わせだけれど、この映画の原案は斎藤耕一。彼については何も知らないので何の確証もないけれど、たぶん『有りがたうさん』を意識していると思う。

といっても、運転手が二枚目だったり「ありがとう」と言ったり説教したりするわけではない。しかし、利根はる恵=桑野通子や福田文子=築地まゆみみたいな対応がみられたり、「早くしないと東京行きの汽車に間に合わない」という台詞が再三聞かれたり、関連性を感じないわけにはいかない。登場人物がなにげに時代背景を表しているようなところも。

しかしこちらのバスは『有りがたうさん』ののんびりした雰囲気とは全く異なり、乗客はみんな怪しすぎ。自殺未遂に銀行強盗によるバスジャックに崖崩れに、77分しかないのに事件起こりすぎ。それをほとんど知らないような俳優がやっているのはいささかしんどい。添え物映画だからしかたがないとはいえ、ちょっと名の知れたような俳優は金子信雄二谷英明くらいなのだ。

その金子信雄は、護送される殺人犯の元軍医。こういう映画にありがちなように、「えー、このバスにお医者さんはおられませんか?」という状況になり、手錠をはずしてもらって手当をする。「でも金子信雄だから逃走するのでは」という心配もむなしく、最後まで真面目な役。中国で戦犯になって、帰国したら死んだことになっていて、再婚していた妻とその相手を殺してしまったという屈折した役どころで、他の映画では見られない、暗く沈痛な面持ちが印象的。一日に2回も金子信雄を見て、2回とも悪役じゃないなんて、滅多にあることではない。

個人的には、この映画を観てマレー鉄道が洪水で止まったときのことを思い出した。「振替のバスが来ます」と言われたのに全然来ず、救世軍でお菓子を食べさせてもらっているあいだに列車が動いたのだけれど、あのときバスが来ていたらこんな怖い目に遭ったかも。