バンガロールに来ちゃったの

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『乾いた花』(篠田正浩)[C1964-34]

今週も遅めに出京して阿佐ヶ谷へ。タコライスを食べてから、ラピュタ阿佐ヶ谷の「武満徹の映画音楽」特集で、篠田正浩監督の『乾いた花』を観る。

乾いた花 [DVD]

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篠田正浩にはほとんど興味がないが、これは主演の池部良がすごくいいというウワサなので観てみた。たしかに虚無的でクールだが、期待が大きすぎたのか、思ったほどではなかった。わたしの中の映画史時計では、松竹ヌーヴェル・ヴァーグ東映仁侠映画よりずっと前という思い込みができていて、若いころ(っていつだ?)の池部良がヤクザをやるんだと勝手に期待していたが、実は両者の時期はあまり変わらない(よって、池部良の年齢もあまり変わらない)のであった。

義理や人情とはほとんど無縁であり、かといって仁義なき戦いを繰り広げるようなギラギラしたところもない、いっぷう変わったヤクザ映画である点はユニークである。濃厚な夜の気配も印象的だ。しかし、退屈して人生に飽きたような池部良加賀まりこの設定や台詞がやけにカンネン的で、アタマでつくった映画という感じが鼻につく。ヒロインは、賭場に現れては大金をスッたり、興味本位でヤクを打ってみたりする謎の女だが、わたしが加賀まりこにぜんぜん魅力を感じないのが致命的。

好きなのは、宮口精二東野英治郎の登場シーン。競馬場の観客席に、黒いサングラスのいかにも怪しげな男がふたり、並んで双眼鏡を覗いている。キャメラが近づくと、これが宮口精二東野英治郎宮口精二池部良のボス。東野英治郎はかつて敵対していた組のボス。池部良は両者の対立のなかで人を殺して刑務所に入っていたが、出てきてみたら手打ちをしていた、という設定。ふたりは腹を探りあっているという感じでもなく、なんだか仲のよいおともだち。競馬のあとは、レストランの個室でコース料理を食べる。

宮口精二はもうすぐ子供が生まれることもあり、抗争とか縄張りを広げるとかはもういいから、ほかの組とも仲良くして、適当にビジネスをして、楽しく平和に暮らしたい。しかし、そういう覇気のないところには敵がつけこんでくるのが常であり、現にいまも大阪のヤクザにシマを荒らされている。そこで池部良がふたたび殺しをやることになる。そこがこの映画でいちばん好きなシーン。店のBGMなのか、大音量でクラシックの歌曲が流れるなか、このボスのいる喫茶店池部良が入っていく。ボスに近づいていくが、ボスの顔はわからない。刺されるときにはじめて見せるその顔は…、じゃーん、山茶花究である。アコギな大阪ヤクザにはぴったりな反面、妙に小物っぽい雰囲気。それが、この男を殺してふたたび塀の中に戻らざるを得ない池部良の行動に、やりきれない虚しさを与えている。

『孫文 - 100年先を見た男(夜・明)』(趙崇基)[C2007-44]

新宿へ移動し、ジュンク堂へ。「台湾ブックフェア」を覗くが目新しいものは何もなく、代わりに『女優魂 中原早苗[B1364]を買う(そんなすごい本が出ていたとは)。セガフレードで喉を潤してからシネマート新宿へ。

今日の2本めは『孫文 - 100年先を見た男(夜・明)』。去年ペナンへ行ったとき、“夜・明 Road to Dawn Filming in Penang”[B1282]というロケ地本を見つけ、とりあえず買っておいたが、その映画が突然公開されたのだ。全編ペナンロケということで、観ないわけにはいかない。

映画は、日本から追放された孫文が、1910年7月から12月までペナンに滞在していた時期を描いたもの。9度もの蜂起に失敗し、支援者の信頼を失った孫文が、中国人富豪たちをふたたび動かして資金を調達するまでの物語に、彼を支える女性、陳粹芬や、彼に影響を受ける華人カップルなどを絡めて描いたメロドラマ風感動巨篇。映画として語るべきことはほとんどない。監督は、『ぼくたちはここにいる(三個相愛的少年)』[C1994-68]の趙崇基(デレク・チウ)だが、なんでまたこんな大作っぽい中国映画を撮っているんだか。

孫文に関しては、彼の革命への道で最も暗い時期(つまり夜明け前)を描いていると思われるが、時として苦悩がうかがえるにしても、その信念のゆるがなさが立派すぎて親近感がわかない。また、たび重なる失敗で、かつて支援してくれた人たちを失望させた孫文は、ふたたび信頼を得るために新たな戦略を打ち出すわけではない。おそらくこれまでとほとんど変わらないわかりやすいお話を演説のパワーで盛り上げて、その場の熱気で人々を動かしてしまうのだが、そのお話がやたらとナショナリスティックで賛同できないので、ぜんぜん感動できない。ちなみに、孫文を演じているのは「孫文俳優」の趙文瑄(ウィンストン・チャオ)。

孫文に影響を受け、彼を助ける富豪の娘、徐丹蓉を演じているのは李心潔(アンジェリカ・リー)。マレーシア華人という彼女の背景、人気、実力、知名度すべてにおいて、この役をやるのは彼女しかないと思うが、年齢設定に問題がある。最初、婚約者といちゃいちゃしていたので20代前半くらいの役かと思ったが、なんと中華学校に通うなんちゃって女子高生だった。しかも婚約者はその学校の先生なのに、学校でいちゃいちゃしている。これでは『孫文』ではなくて『高校教師』である。

この映画の魅力は、全編にわたるペナンロケである。残念ながら、映画として印象的なシーンがほとんどないので、「あのシーンのあの場所がすばらしい」というのはない。しかし、主要なロケ地は行ったことのないところだったものの、知っているところが次々に出てきてうれしい(詳細は別記事で)。街並みに少しだけ手を加え、注意深くコムタが写らないアングルさえ選べば、百年前の物語が撮れてしまうペナン(ジョージ・タウン)というところはかなりすごいと思う。

これだけ大々的にペナンロケをしているので、それなりに時代考証はしているものと思うが、けっこう気になるところがあった。丹蓉は、最初のパーティでの服装などからプラナカンと思われるが、孫文が徐氏に「あなたは中国大陸からやって来た」みたいに言うところがあったり、この一家の名前が北京語読みだったりするのが疑問だった。李心潔の肌の露出の多さも気になる。

また、誰もが英語以外は北京語を話していて(「カムシャー」とか言っているところもいちおうあったが)、ほんとうは何語を話しているのだろうというのがとても気になった。実際は、広東語や福建語をはじめとしてかなり多様な言語が使われていたと思うし、そもそも中華学校では何語で教えていて、孫文は何語で演説をしたのだろうか。中国映画であるこの映画では、端から気にしていないと思われるけれども。

映画のあとは、王ろじでとんかつセットを食べて帰る。

『孫文 - 100年先を見た男』の檳城(ペナン)

孫文 - 100年先を見た男(夜・明)』[C2007-44]の主要なロケ地は、檳城僑生博物館(Pinang Peranakan Manshon)、市政府別墅(Municipal Guest House)、萊特街修道院學校(Convent Light Street)。檳城僑生博物館では、丹蓉の家、徐家の内部が撮影されている。市政府別墅は、前半の孫文の隠れ家となる家。萊特街修道院學校は、後半で孫文の隠れ家となる、丹蓉の通う学校。残念ながら、これらの場所へは行ったことがない。

以下、主要なロケ地というわけではないが、この映画に出てきた場所をいくつか紹介。去年泊まった張弼士別墅(Cheong Fatt Tze Manshion)(↓左写真)は、徐家の経営する阿片窟、“福壽堂”として出てきた。毎日上り下りした螺旋階段(↓右写真)も登場。


陸家別墅(Loke Mansion)(↓左写真)は、徐家の外観として使われていた。檳城市政局大廈(Town Hall)(↓右写真)は、徐氏がパーティを開くところ。

32號別墅(The Mansion, Thirty-two)(↓左写真)は清朝領事館。大鐘樓(clocktower)(↓右写真)は外景として出てきた。